「VS Codeは素晴らしいが、Chromeのタブを50個開いているようなメモリ消費にはうんざりだ」。これが、多くのエンジニアが抱える本音ではないだろうか。長年、デスクトップアプリ開発の王座にはElectronが君臨してきた。Web技術でネイティブアプリを作れる利便性は革命的だったが、その代償としての「リソースの肥大化」は無視できないレベルに達している。そこに現れたのがGoogleのFlutterだ。モバイルでの成功を引っ提げ、デスクトップ領域でもネイティブ並みのパフォーマンスを武器にシェアを伸ばしている。筆者が実際に両者でプロダクション製品を設計した経験に基づき、技術的なトレードオフを冷徹に分析する。
アーキテクチャの決定的な違い
この2つのフレームワークは、根本的な思想が異なる。どちらを選択するかは、単なる「言語の好み」ではなく、アプリケーションの「レンダリング戦略」をどう定義するかという問題だ。
Electron: Chromeを同梱する重量級チャンピオン
Electronの本質は「Node.jsバックエンド」と「Chromiumフロントエンド」の合体だ。各ウィンドウは個別のレンダラープロセス(実質的なブラウザタブ)を持ち、メインプロセスとIPC(プロセス間通信)で連携する。
デメリット: "Hello World"を表示するだけで、Chromiumバイナリ全体を同梱するため100MB以上のサイズになり、メモリも数百MB消費する。
Flutter: ゲームエンジンのような描画性能
対するFlutterは、Skia(または新しいImpeller)エンジンを使用して、UIの全ピクセルを自前で描画する。OSのネイティブウィジェット(ボタンやリスト)を使わず、キャンバスに直接絵を描くアプローチだ。コードはネイティブのマシンコード(ARM64/x64)にコンパイルされる。
デメリット: Dart言語の習得が必要。Web標準(CSSなど)が使えないため、Web開発者には学習曲線がある。
開発体験の比較:IPC vs Platform Channels
デスクトップアプリ開発で最も苦労するのは、OS固有機能(ファイルシステム、通知、トレイアイコン)へのアクセスだ。両者のアプローチを見てみよう。
Electron (IPC Pattern)
Electronでは、セキュリティ上の理由からレンダラープロセス(UI)から直接Node.js APIを叩くことは推奨されない。preload.js を介してブリッジを作る必要がある。
// main.js (Main Process)
const { ipcMain } = require('electron');
ipcMain.handle('read-file', async (event, path) => {
return fs.promises.readFile(path, 'utf-8');
});
// renderer.js (UI)
const data = await window.electronAPI.readFile('/path/to/config');
Flutter (MethodChannel)
Flutterでは、Dart側からホストOS(C++, Swift, Kotlin)のメソッドを呼び出す。デスクトップの場合、C++やRustでプラグインを書くケースもあるが、主要な機能は既にパッケージが存在する。
// Dart code
const platform = MethodChannel('com.example.app/files');
final String result = await platform.invokeMethod('readFile', path);
// C++ (Windows) または Swift (macOS) 側の実装が必要
// ※ただし、現在は 'path_provider' などのパッケージで抽象化されているため、
// 実際にネイティブコードを書く頻度は減っている。
パフォーマンスとリソース消費の現実
筆者のチームで実施した、中規模アプリケーション(データグリッド表示ツール)での比較データは以下の通りだ。
| 指標 | Electron (React) | Flutter (Desktop) | 勝者 |
|---|---|---|---|
| インストーラーサイズ | ~120 MB | ~35 MB | Flutter |
| アイドル時メモリ (RAM) | ~180 MB | ~60 MB | Flutter |
| コールドスタート時間 | 1.5秒 〜 2.5秒 | 0.5秒以下 | Flutter |
| UI描画 (60fps維持率) | DOM要素数に依存 (重い) | 常に安定 (GPU加速) | Flutter |
| 開発速度 (初期) | 非常に速い (Web知識) | 普通 (Dart学習コスト) | Electron |
結論:どちらを選ぶべきか?
最終的な技術選定は、以下の基準で行うべきだ。
Electronを選ぶべきケース:
- チーム全員がWeb開発者であり、Dartを学ぶリソースがない。
- 既存のWebアプリがあり、それを低コストでデスクトップ化したい。
- SEO関連ツールやスクレイピングなど、Node.jsの豊富なライブラリに強く依存する。
- アプリのファイルサイズやメモリ消費が、ユーザーにとって許容範囲内である(B2Bツールなど)。
Flutterを選ぶべきケース:
- パフォーマンスが最優先事項であり、ネイティブに近い軽快な動作が求められる。
- モバイルアプリ(iOS/Android)とデスクトップアプリを単一コードベースで同時開発したい。
- メモリリソースが限られた環境(古いPCや組み込みに近い環境)をターゲットにする。
- ピクセルパーフェクトなUIデザインを一貫して提供したい。
最後に
2026年の視点では、Flutterのデスクトップ対応はもはや「実験的」な段階を脱し、十分にプロダクションレディだ。特に、ユーザー体験(UX)とパフォーマンスを重視するB2Cアプリにおいては、Electronのリソース浪費はもはや許容されなくなりつつある。もし新規プロジェクトを開始するなら、Dartの学習コストを支払ってでもFlutterに投資する価値はある。
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