現代のアプリケーション開発において、ユーザーに最高の体験を提供することは成功の絶対条件です。特にモバイルアプリケーションでは、直感的でスムーズなUI(ユーザーインターフェース)と、バグのない安定した動作が求められます。しかし、開発サイクルの加速、多種多様なデバイス、OSバージョンの断片化といった要因は、品質保証のプロセスを複雑化させています。このような課題に対応するため、テスト自動化はもはや選択肢ではなく、必須のプラクティスとなっています。
Googleによって開発されたUIツールキットであるFlutterは、単一のコードベースからiOS、Android、Web、デスクトップ向けの高性能なアプリケーションを構築できることで、世界中の開発者から絶大な支持を得ています。その美しいUIと卓越した開発者体験は、迅速な開発を可能にしますが、その品質を維持するためには、同様に効率的で信頼性の高いテスト戦略が不可欠です。
この記事では、Flutterの公式テストフレームワークの一つである「Flutter Driver」に焦点を当て、ユーザーの視点からアプリケーション全体をテストするUIテスト(E2Eテスト、インテグレーションテストとも呼ばれる)の自動化について、その概念から具体的な実装、そして高度なテクニックまでを深く掘り下げていきます。単なるツールの使い方にとどまらず、なぜUIテストの自動化が重要なのか、そしてFlutter Driverがどのようにして堅牢で信頼性の高いアプリケーションの構築に貢献するのかを解説します。
目次
第1章: Flutterにおけるテスト戦略の全体像
Flutter Driverを深く理解するためには、まずFlutterが提供するテストエコシステム全体を把握することが重要です。Flutterでは、アプリケーションの異なる側面を検証するために、複数のテストレベルが用意されています。これらは一般的に「テストピラミッド」という概念で説明されます。
テストのピラミッド:Unit、Widget、Integration
テストピラミッドは、ソフトウェアテストの理想的なバランスを示すモデルです。ピラミッドの底辺は広く、頂点に向かうにつれて狭くなります。
- Unit Test (単体テスト): ピラミッドの最も広く、土台となる部分。個々の関数、メソッド、またはクラスといった最小単位のロジックを検証します。実行速度が非常に速く、開発の初期段階で多くのバグを発見できます。
- Widget Test (ウィジェットテスト): 中間層。Flutter特有のテストで、単一のウィジェットの描画やインタラクションをテストします。UIコンポーネントが期待通りに動作することを保証します。
- Integration Test (統合テスト): ピラミッドの頂点。Flutter Driverが担う領域で、複数のウィジェットやサービスが連携して動作する、アプリケーション全体のフローをテストします。ユーザーの実際の操作を模倣するため、最も信頼性が高い反面、実行速度は遅くなります。
効果的なテスト戦略とは、これら3つのテストを適切に組み合わせ、各層でカバレッジを確保することです。UnitテストとWidgetテストで大部分をカバーし、重要なユーザーシナリオをIntegrationテストで検証するのが理想的なアプローチです。
Unit Test: ビジネスロジックの最小単位を検証する
Unitテストは、UIに依存しない純粋なDartのロジックを検証します。例えば、モデルクラスのメソッド、状態管理ロジック、ユーティリティ関数などが対象です。Flutter SDKに依存せず、高速に実行できるため、CI/CDパイプラインで最初に実行されるべきテストです。
// test/unit_test.dart
import 'package:flutter_test/flutter_test.dart';
// テスト対象のクラス
class Counter {
int value = 0;
void increment() => value++;
void decrement() => value--;
}
void main() {
group('Counter', () {
test('value should start at 0', () {
expect(Counter().value, 0);
});
test('value should be incremented', () {
final counter = Counter();
counter.increment();
expect(counter.value, 1);
});
});
}
Widget Test: UIコンポーネントの動作を隔離して検証する
「すべてがウィジェットである」というFlutterの思想に基づき、WidgetテストはUIの構成要素を個別にテストする強力な手段です。テスト環境内で特定のウィジェットをレンダリングし、テキストの表示、色の確認、タップなどのインタラクションに対する反応を検証します。
// test/widget_test.dart
import 'package:flutter/material.dart';
import 'package:flutter_test/flutter_test.dart';
void main() {
testWidgets('MyWidget has a title and message', (WidgetTester tester) async {
// テスト対象のウィジェットをビルド
await tester.pumpWidget(const MaterialApp(
home: Scaffold(
body: Text('Hello, World!'),
),
));
// 'Hello, World!' というテキストを持つウィジェットが1つだけ存在することを確認
expect(find.text('Hello, World!'), findsOneWidget);
});
}
このテストは、実際のデバイスやエミュレータを必要とせず、メモリ上で高速に実行されます。
Integration Test (Flutter Driver): アプリケーション全体の振る舞いを検証する
そして本稿の主役であるIntegration Testです。Flutter Driverは、アプリケーションを実際のデバイスやエミュレータ、シミュレータ上で起動し、別のプロセスからUIを操作(ドライブ)します。これにより、以下のようなユーザーの視点に立ったシナリオを検証できます。
- ログイン画面で認証情報を入力し、ホーム画面に遷移すること。
- 商品リストをスクロールし、特定の商品をタップして詳細画面を開くこと。
- フォームに入力し、サーバーとの通信を経てデータが正しく保存されること。
- 画面の回転やアプリケーションのバックグラウンドからの復帰後も状態が維持されること。
UnitテストやWidgetテストでは捉えきれない、コンポーネント間の連携不具合や、プラットフォーム固有の問題、パフォーマンスの劣化などを検出する上で不可欠なテストです。
第2章: Flutter Driver環境の構築
Flutter Driverでテストを開始するには、いくつかの初期設定が必要です。ここでは、プロジェクトにFlutter Driverを導入し、テストを実行するための基本的な環境を構築する手順を解説します。
必要な依存関係の追加
まず、プロジェクトの `pubspec.yaml` ファイルに `flutter_driver` と `test` パッケージを開発者向けの依存関係(`dev_dependencies`)として追加します。通常、`flutter create` で作成したプロジェクトには `test` は既に追加されています。
# pubspec.yaml
...
dev_dependencies:
flutter_test:
sdk: flutter
flutter_driver:
sdk: flutter
test: any
...
ファイルを保存した後、ターミナルで `flutter pub get` を実行して、依存関係をプロジェクトにインストールします。
テストドライバーディレクトリの構造
Flutter Driverのテストコードは、慣例的にプロジェクトのルートに `test_driver` というディレクトリを作成して配置します。このディレクトリには、主に2つのファイルが含まれます。
- `app.dart` (または任意の名前): テスト対象のアプリケーションを起動するためのエントリポイント。このファイルは、通常の `lib/main.dart` をベースに、Flutter Driverからの通信を有効にするための特別なコードを追加したものです。
- `app_test.dart` (または `_test` で終わる任意の名前): 実際のテストロジックを記述するスクリプト。このスクリプトが、`app.dart` で起動したアプリを外部から操作します。
ディレクトリ構造の例:
my_flutter_app/
├── lib/
│ └── main.dart
├── test/
│ └── widget_test.dart
├── test_driver/
│ ├── app.dart
│ └── app_test.dart
└── pubspec.yaml
インストルメント化されたアプリのエントリポイント
`test_driver/app.dart` の役割は、テスト対象のアプリを起動し、Flutter Driverからの命令を受け付けるための「拡張機能」を有効にすることです。これは `enableFlutterDriverExtension()` という関数を呼び出すことで実現します。
// test_driver/app.dart
import 'package:flutter_driver/driver_extension.dart';
// 通常のアプリのエントリポイントをインポート
import 'package:my_flutter_app/main.dart' as app;
void main() {
// Flutter Driver拡張機能を有効にする
enableFlutterDriverExtension();
// アプリケーション本体を起動する
app.main();
}
この一行 `enableFlutterDriverExtension();` が、テストスクリプトとアプリケーション間の通信ブリッジを確立する鍵となります。
テストスクリプトの準備
`test_driver/app_test.dart` には、テストのセットアップ、実行、クリーンアップのロジックを記述します。この時点では、基本的な枠組みだけを作成しておきます。
// test_driver/app_test.dart
import 'package:flutter_driver/flutter_driver.dart';
import 'package:test/test.dart';
void main() {
group('My App Test', () {
FlutterDriver? driver;
// 全てのテストの前に一度だけ実行される
setUpAll(() async {
// アプリケーションに接続する
driver = await FlutterDriver.connect();
});
// 全てのテストの後に一度だけ実行される
tearDownAll(() async {
if (driver != null) {
// アプリケーションとの接続を閉じる
await driver!.close();
}
});
// ここに個別のテストケースを記述していく
test('initial screen is correct', () async {
// テストロジック
});
});
}
`setUpAll` で `FlutterDriver.connect()` を呼び出してアプリに接続し、`tearDownAll` で `driver.close()` を呼び出して接続を解除するのが基本的なパターンです。これで、最初のテストを書く準備が整いました。
第3章: Flutter Driverによるテストの実装
環境が整ったので、実際にテストコードを記述していきます。Flutter Driverでのテストは、主に「Finder(要素の特定)」「Action(操作)」「Assertion(検証)」の3つのステップで構成されます。
テストスクリプトの基本構造
前章で作成した `app_test.dart` の枠組みの中に、具体的なテストケースを追加します。各テストケースは `test()` 関数で定義し、`async` キーワードを付けて非同期処理を記述します。
test('increments the counter', () async {
// 1. Finder: UI要素を特定する
final buttonFinder = find.byValueKey('increment_button');
// 2. Action: 特定した要素を操作する
await driver!.tap(buttonFinder);
// 3. Assertion: 結果を検証する
final counterTextFinder = find.byValueKey('counter_text');
expect(await driver!.getText(counterTextFinder), '1');
});
Finder: UI要素を特定する
テストでUIを操作するには、まず対象となるウィジェットを画面上から見つけ出す必要があります。そのためのツールが `Finder` です。Flutter Driverでは `SerializableFinder` と呼ばれる、プロセスをまたいでシリアライズ可能なFinderを使用します。
最も信頼性が高く、推奨される方法は `ValueKey` を使用する方法です。アプリケーションコード側で、テスト対象のウィジェットに一意のキーを付与します。
// アプリケーションコード (lib/main.dart)
FloatingActionButton(
key: const ValueKey('increment_button'), // キーを設定
onPressed: _incrementCounter,
tooltip: 'Increment',
child: const Icon(Icons.add),
)
そして、テストコード側でこのキーを使ってウィジェットを特定します。
// テストコード (test_driver/app_test.dart)
final buttonFinder = find.byValueKey('increment_button');
`ValueKey` 以外にも、様々なFinderが用意されています。
- `find.byTooltip('Increment')`: ツールチップのテキストで探す。
- `find.byType('FloatingActionButton')`: ウィジェットの型で探す。
- `find.text('You have pushed the button this many times:')`: 表示されているテキストで探す(ただし、テキストは変更されやすいため注意が必要)。
- `find.descendant()`: 特定のウィジェットの子孫を探す。
- `find.ancestor()`: 特定のウィジェットの祖先を探す。
ベストプラクティス: テストの安定性を高めるため、可能な限り `find.byValueKey` を使用しましょう。これにより、UIの見た目や文言の変更に強い、堅牢なテストを記述できます。
アクション: ユーザー操作をシミュレートする
Finderでウィジェットを特定したら、`driver` オブジェクトのメソッドを使ってユーザー操作をシミュレートします。
- `driver.tap(finder)`: タップ操作。
- `driver.enterText(finder, 'some text')`: テキストフィールドへの入力。
- `driver.scroll(finder, dx, dy, duration)`: 特定のウィジェットを起点にスクロール。
- `driver.scrollUntilVisible(scrollableFinder, itemFinder, ...)`: スクロール可能な領域内から、目的のアイテムが見つかるまでスクロールする。非常に便利です。
- `driver.waitFor(finder)`: 特定のウィジェットが表示されるまで待機する。
- `driver.waitForAbsent(finder)`: 特定のウィジェットが非表示になるまで待機する。
アサーション: 期待される状態を検証する
アクションを実行した後、アプリケーションが期待通りの状態に変化したかを確認します。これには、`test` パッケージの `expect` 関数と、`driver` の状態取得メソッドを組み合わせます。
- `expect(await driver.getText(finder), 'expected text')`: ウィジェットのテキストが期待通りか検証。
- `expect(await driver.getHealth(), isNotNull)`: アプリのヘルスチェック(正常に動作しているか)。
また、`waitFor` や `waitForAbsent` をアサーションとして使用することもできます。例えば、「ログインボタンをタップしたら、プログレスインジケータが表示されること」を `driver.waitFor(progressIndicatorFinder)` で検証する、といった使い方です。
実践的なテストコードの例(カウンターアプリ)
それでは、これまでの知識を総動員して、Flutterのデフォルトカウンターアプリのテストを完成させましょう。
アプリケーションコードの修正 (lib/main.dart)
まず、テストからアクセスできるようにウィジェットにキーを追加します。
// lib/main.dart (抜粋)
Scaffold(
appBar: AppBar(title: Text(widget.title)),
body: Center(
child: Column(
mainAxisAlignment: MainAxisAlignment.center,
children: <Widget>[
const Text('You have pushed the button this many times:'),
Text(
'$_counter',
key: const ValueKey('counter_text'), // ← テキストにキーを追加
style: Theme.of(context).textTheme.headlineMedium,
),
],
),
),
floatingActionButton: FloatingActionButton(
key: const ValueKey('increment_button'), // ← ボタンにキーを追加
onPressed: _incrementCounter,
tooltip: 'Increment',
child: const Icon(Icons.add),
),
);
テストスクリプト (test_driver/app_test.dart)
// test_driver/app_test.dart
import 'package:flutter_driver/flutter_driver.dart';
import 'package:test/test.dart';
void main() {
group('Counter App', () {
late FlutterDriver driver;
// テスト対象のFinderを定義
final counterTextFinder = find.byValueKey('counter_text');
final buttonFinder = find.byValueKey('increment_button');
setUpAll(() async {
driver = await FlutterDriver.connect();
});
tearDownAll(() async {
await driver.close();
});
test('starts at 0', () async {
// 初期状態のカウンターテキストが '0' であることを確認
expect(await driver.getText(counterTextFinder), "0");
});
test('increments the counter', () async {
// ボタンをタップ
await driver.tap(buttonFinder);
// カウンターテキストが '1' になったことを確認
expect(await driver.getText(counterTextFinder), "1");
// もう一度ボタンをタップ
await driver.tap(buttonFinder);
// カウンターテキストが '2' になったことを確認
expect(await driver.getText(counterTextFinder), "2");
});
});
}
このテストを実行するには、ターミナルで以下のコマンドを入力します。
flutter drive --target=test_driver/app.dart
このコマンドは、接続されているデバイスまたは起動中のエミュレータ/シミュレータ上で、`test_driver/app.dart` を実行し、`test_driver/app_test.dart` スクリプトでそれを操作します。テストが成功すれば、コンソールに `All tests passed!` と表示されます。
第4章: 高度なテクニックとベストプラクティス
基本的なテストが書けるようになったら、次はより複雑なシナリオに対応し、テストコード自体の保守性や可読性を高めるためのテクニックを学びましょう。
Page Object Model (POM)による保守性の向上
アプリケーションが大規模になるにつれて、テストコード内にFinderの定義や操作ロジックが散乱し、メンテナンスが困難になります。Page Object Model(POM)は、この問題を解決するためのデザインパターンです。
POMでは、アプリケーションの各画面(ページ)に対応するクラスを作成します。そのクラス内に、その画面上のUI要素(Finder)と、それらを操作するメソッドをカプセル化します。
Page Objectクラスの例:
// test_driver/pages/counter_page.dart
import 'package:flutter_driver/flutter_driver.dart';
class CounterPage {
final FlutterDriver _driver;
// Finderの定義
final _counterTextFinder = find.byValueKey('counter_text');
final _incrementButtonFinder = find.byValueKey('increment_button');
CounterPage(this._driver);
// 画面上のUI要素を操作するメソッド
Future<String> getCounterText() async {
return await _driver.getText(_counterTextFinder);
}
Future<void> increment() async {
await _driver.tap(_incrementButtonFinder);
}
}
POMを使用したテストスクリプト:
// test_driver/app_test.dart
import 'package:flutter_driver/flutter_driver.dart';
import 'package:test/test.dart';
import 'pages/counter_page.dart';
void main() {
group('Counter App with POM', () {
late FlutterDriver driver;
late CounterPage counterPage;
setUpAll(() async {
driver = await FlutterDriver.connect();
counterPage = CounterPage(driver);
});
tearDownAll(() async {
await driver.close();
});
test('starts at 0', () async {
expect(await counterPage.getCounterText(), "0");
});
test('increments the counter', () async {
await counterPage.increment();
expect(await counterPage.getCounterText(), "1");
await counterPage.increment();
expect(await counterPage.getCounterText(), "2");
});
});
}
POMを導入することで、テストスクリプトは「何を」テストするかに集中でき、「どのように」操作するかの詳細はページオブジェクトクラスに隠蔽されます。UIの変更があった場合も、修正は対応するページオブジェクトクラスだけで済み、テストコード全体の可読性と保守性が劇的に向上します。
非同期処理と待機戦略
現代のアプリでは、ネットワーク通信やデータベースアクセス、複雑なアニメーションなど、完了までに時間がかかる非同期処理が多用されます。テストスクリプトがUI要素を操作しようとしたときに、その要素がまだ表示されていなければテストは失敗します。
`sleep()` のような固定時間の待機を入れるのは、テストを不安定にするアンチパターンです。ネットワークの遅延やデバイスの性能によって必要な待機時間は変動するため、固定時間では長すぎたり短すぎたりするからです。
Flutter Driverは、より信頼性の高い動的な待機メカニズムを提供します。
- `driver.waitFor(finder, timeout: ...)`: 指定したFinderに一致するウィジェットが描画されるまで、指定したタイムアウト時間まで待機します。APIレスポンスを待って表示されるデータなどを検証する際に必須です。
- `driver.waitForAbsent(finder, timeout: ...)`: 指定したウィジェットが画面上から消えるまで待機します。ローディングインジケータが消えるのを待つ場合などに使用します。
test('loads data from network', () async {
// データをロードするボタンをタップ
await driver.tap(find.byValueKey('load_data_button'));
// ローディングインジケータが表示されるのを待つ
await driver.waitFor(find.byValueKey('loading_indicator'));
// ローディングインジケータが消えるのを待つ
await driver.waitForAbsent(find.byValueKey('loading_indicator'));
// データが表示されたことを確認
expect(await driver.getText(find.byValueKey('loaded_data_text')), isNotEmpty);
});
デバッグを容易にするスクリーンショット機能
CI環境などでテストを実行していると、なぜテストが失敗したのかを特定するのが難しい場合があります。Flutter Driverには、テスト失敗時の状況を把握するためにスクリーンショットを撮影する機能があります。
`try-catch` ブロックや `tearDown` を利用して、テストが失敗した際にスクリーンショットを保存するように設定できます。
// ...
import 'dart:io';
// ...
tearDown(() async {
if (testDescription.startsWith('failed')) { // test packageの機能で失敗を検知
final screenshot = await driver.screenshot();
final file = File('screenshots/${DateTime.now().toIso8601String()}.png');
await file.create(recursive: true);
await file.writeAsBytes(screenshot);
print('Screenshot saved to ${file.path}');
}
});
test('some failing test', () async {
// ...
});
// ...
(注:`testDescription` を利用した失敗検知は、テストランナーの実装に依存する場合があります。より堅牢な実装には、カスタムのテストウォッチャーなどを検討する必要があります。) よりシンプルな方法として、`try-finally` を使うこともできます。
CI/CDパイプラインへの統合
Flutter Driverテストの真価は、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)パイプラインに組み込むことで発揮されます。コードがリポジトリにプッシュされるたびに自動的にテストを実行し、リグレッション(意図しない機能の劣化)を早期に発見できます。
GitHub Actionsでの実行例:
# .github/workflows/flutter_drive.yml
name: Flutter Drive Test
on: [push]
jobs:
drive:
runs-on: macos-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- uses: actions/setup-java@v1
with:
java-version: '12.x'
- uses: subosito/flutter-action@v2
with:
channel: 'stable'
- name: Start iOS Simulator
run: |
ios_sim_id=$(xcrun simctl list devices | grep "iPhone" | head -n 1 | awk -F'[()]' '{print $2}')
xcrun simctl boot $ios_sim_id
- name: Run Flutter Driver tests
run: flutter drive --target=test_driver/app.dart
このワークフローは、macOS環境でiOSシミュレータを起動し、`flutter drive` コマンドを実行します。Androidエミュレータを使用する同様のワークフローも作成可能です。これにより、開発プロセス全体でアプリケーションの品質を常に高いレベルで維持することができます。
第5章: Flutterテストの進化と未来
Flutter Driverは、FlutterのUIテスト自動化において重要な役割を果たしてきましたが、Flutterのテストエコシステムは常に進化しています。ここでは、Flutter Driverの現状と、後継と位置づけられる新しいパッケージについて解説します。
Flutter Driverからintegration_testパッケージへ
現在、Flutterチームが公式に推奨するインテグレーションテストの方法は、`flutter_driver` パッケージではなく、`integration_test` パッケージを使用する方法です。
`integration_test` パッケージは、Flutter Driverの利点(アプリケーション全体をテストする)と、Widgetテストの利点(同じプロセス内で実行されるため高速で安定している)を組み合わせたものです。
`integration_test` の主な利点:
- 統一されたAPI: Widgetテストと同じ `WidgetTester` API を使用してテストを記述できるため、学習コストが低く、コードの再利用性も高まります。
- 実行速度と安定性: テストコードとアプリケーションが同じプロセスで実行されるため、`flutter_driver` のようなプロセス間通信のオーバーヘッドがなく、より高速で安定したテストが可能です。
- デバイスファーム連携: Firebase Test LabやAWS Device Farmなどのクラウドベースのテスト環境で、ネイティブテスト(Espresso, XCUITest)として実行できるため、大規模なテストにも対応できます。
`flutter_driver` から `integration_test` への移行は比較的簡単です。テストのロジックは似ていますが、セットアップと実行方法が異なります。これから新規にインテグレーションテストを導入する場合は、`integration_test` パッケージの利用を第一に検討すべきです。
しかし、`flutter_driver` が完全に不要になったわけではありません。アプリケーションを完全にブラックボックスとして、外部から操作するテストが必要な場合(例えば、プラットフォーム固有の権限ダイアログを操作するなど)には、依然として `flutter_driver` が有効な選択肢となります。
他のテストフレームワークとの比較
Flutter Driverや `integration_test` 以外にも、モバイルアプリのUIテストを自動化するフレームワークは存在します。
- Appium: WebDriverプロトコルをベースにした、クロスプラットフォームのテスト自動化フレームワーク。ネイティブアプリ、ハイブリッドアプリ、モバイルウェブアプリに対応しています。Flutterアプリもテスト可能ですが、Flutterウィジェットツリーへのアクセスが限定的であるため、要素の特定が難しくなる場合があります。
- Detox: JavaScriptで記述する、モバイルアプリ向けのE2Eテストフレームワーク。グレイボックステスト(アプリの内部状態を監視しながらテストする)を特徴とし、非同期処理に強いとされています。Flutterへの対応はコミュニティベースで進められています。
これらのフレームワークと比較して、Flutter Driverや `integration_test` の最大の利点は、Flutterフレームワークとの深い統合です。Flutterのレンダリングエンジンやウィジェットツリーと直接連携できるため、より正確で、パフォーマンスの高いテストを実現できます。特別な理由がない限り、Flutterアプリのテストには公式のテストフレームワークを使用することが最も効率的で確実な方法です。
第6章: まとめ
本稿では、Flutter Driverを用いたUIテスト自動化について、基本的な概念から環境構築、具体的な実装方法、そして保守性を高めるための高度なテクニックまでを包括的に解説しました。
UIテストの自動化は、単に手動テストの工数を削減するだけではありません。CI/CDパイプラインに組み込むことで、開発の初期段階でリグレッションを検知し、コードの変更に対する自信を与え、結果として開発プロセス全体の速度と品質を向上させます。手動テストでは見逃しがちなエッジケースや、特定の操作順序でしか発生しない不具合を体系的に検証できるため、アプリケーションの堅牢性を飛躍的に高めることができます。
Flutter Driverは、ユーザーの視点からアプリケーション全体の振る舞いを保証するための強力なツールです。そして、その思想は後継の `integration_test` パッケージへと受け継がれ、さらに効率的で安定したテスト環境を提供しています。
高品質なアプリケーションをユーザーに届け続けるためには、テストへの投資が不可欠です。この記事が、あなたのFlutter開発プロジェクトにおけるテスト戦略を構築し、より信頼性の高いプロダクトを生み出すための一助となれば幸いです。
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