深夜のデプロイ作業中、クライアントから支給されたフォントファイルをサーバーにアップロードしようとして手が止まった経験はないだろうか。手元には同じフォントファミリーの .otf と .ttf が混在している。「とりあえず両方入れておけばいい」という安易な判断は、Webパフォーマンスの低下や、印刷工程でのグリフ欠損という時限爆弾を抱え込むことになる。かつて私が担当した大規模なDTPシステム移行プロジェクトでも、この拡張子の違いを軽視した結果、ベジェ曲線のレンダリング誤差による「文字の滲み」問題に数週間悩まされた。これは単なる好みの問題ではない。otf と ttf の内部構造を理解し、エンジニアリング視点で最適なフォーマットを選択する戦術的な判断が求められている。
Deep Dive Analysis: ベジェ曲線の数学的差異
根本的な違いは、フォントがアウトライン(輪郭)をどのように描画するかという数学的アプローチにある。これを理解せずにフォントを選ぶのは、TCPとUDPの違いを知らずにネットワークプロトコルを選ぶようなものだ。
TTF (TrueType Font) はAppleとMicrosoftによって1980年代に開発された。その核心は2次ベジェ曲線(Quadratic Bézier curves)にある。制御点は少なく計算負荷は軽いため、CPUパワーが貧弱だった時代の画面表示(ラスタライズ)において覇権を握った。しかし、複雑なカーブを表現するには多くの点を必要とし、データ量が増加する傾向がある。
対して OTF (OpenType Font) はAdobeとMicrosoftが策定した規格だ。一般的に「OTF」と呼ばれるファイル(CFFフレーバー)は、PostScriptベースの3次ベジェ曲線(Cubic Bézier curves)を採用している。これはイラストレーターがベクターパスを描く際に使うものと同じで、より少ない制御点で滑らかかつ精密な曲線を表現できる。印刷業界やDTPの現場でAdobe FontsなどがOTFを推奨するのは、この「出力時の忠実度」が圧倒的に高いためだ。
さらに、OTFは「合字(リガチャ)」や「スワッシュ」といった高度なタイポグラフィ機能を標準で強力にサポートしている。これらはCSSの font-feature-settings プロパティで制御可能だが、TTFベースのフォントではデータ自体が含まれていないケースが多い。
The Solution: 目的別・フォント選定マトリクス
現場で即断するための基準は以下の通りだ。私がリードエンジニアとしてプロジェクトに導入している判定ロジックを共有する。特にWeb開発においては、Google Fontsなどのリポジトリからサブセット化する際、この元ファイルの形式が最終的なWOFF2変換後の品質に影響を与える。
- DTP・印刷物・ロゴ制作: 間違いなく OTF。高解像度出力時の曲線品質とリガチャ対応が必須だ。
- Web本文・UI (Windows): TTF が無難。WindowsのClearTypeレンダリングエンジンは歴史的にTrueTypeヒンティングに最適化されている。
- モバイルアプリ・iOS: どちらでも良いが、ファイルサイズ削減のために OTF を選ぶことが多い。
以下は、Pythonの fonttools ライブラリを使用して、手元のフォントファイルが実際にどのようなアウトラインデータ(TrueType vs CFF)を持っているかを検証し、自動判定するスクリプトだ。拡張子が .otf でも中身が TrueType アウトラインである場合があるため、バイナリレベルでの確認が必要だ。
# 必要なライブラリ: pip install fonttools
from fontTools.ttLib import TTFont
def analyze_font_type(file_path):
try:
font = TTFont(file_path)
# 'CFF 'テーブルが存在すればPostScriptアウトライン (OTFの本流)
if 'CFF ' in font:
print(f"[Result] {file_path}: CFF (PostScript) based OTF.")
print(" -> 推奨: 印刷、高解像度ディスプレイ、複雑なタイポグラフィ")
# 'glyf'テーブルが存在すればTrueTypeアウトライン
elif 'glyf' in font:
print(f"[Result] {file_path}: TrueType based.")
print(" -> 推奨: レガシーWindows環境、スクリーン表示の可読性重視")
else:
print(f"[Error] {file_path}: Unknown format.")
except Exception as e:
print(f"Error parsing font: {e}")
# 使用例
analyze_font_type("Corporate-Font.otf")
analyze_font_type("Legacy-Font.ttf")
| 機能・特性 | TTF (TrueType) | OTF (CFF PostScript) |
|---|---|---|
| ベジェ曲線 | 2次 (Quadratic) - 単純 | 3次 (Cubic) - 精密 |
| ファイルサイズ | 比較的大きい傾向 | コンパクト (効率的な圧縮) |
| グリフ数 | 約65,000 (理論値) | 約65,000 (拡張機能豊富) |
| 主な用途 | オフィス文書、Web本文、Windows | DTP、ロゴ、出版、高品質Web |
Conclusion
結論として、現代のクリエイティブワークフローにおいて、デフォルトの選択肢とすべきは OTF である。特に高DPIディスプレイが標準化した今、TTFの「低解像度での可読性」というかつての優位性は薄れつつある。しかし、古いWindows環境をサポートする業務アプリケーションや、特定のヒンティングに依存するシステムではTTFが救世主となる場合がある。重要なのは、拡張子を盲信するのではなく、プロジェクトの最終出力先(紙か、画面か、レガシーOSか)を見極めてフォーマットを決定することだ。次にフォントフォルダを開くときは、この技術的背景を思い出してほしい。
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