JSのCanvas操作でフリーズする問題をRustとWebAssemblyで解決した話 (FFmpeg WASM導入)

ユーザーがアップロードした4K動画のサムネイル生成やトランスコードをJavaScriptのCanvas APIのみで行おうとすると、メインスレッドがブロックされ、UIが数秒間完全にフリーズする現象に直面しました。サーバーサイドでの処理はAWS Lambdaのコストを肥大化させるため、ブラウザ内での完結が必須要件でした。この記事では、WebAssemblyとRustを用いて、このボトルネックを解消した具体的な実装プロセスを共有します。

なぜJavaScriptでは限界なのか:メモリとGCの壁

JavaScriptは動的型付け言語であり、大量のバイナリデータ(画像ピクセル配列など)を扱う際にGarbage Collection(GC)のオーバーヘッドが無視できません。特にUint8ClampedArrayを頻繁に生成・破棄する動画処理では、メモリ割り当てのコストがパフォーマンスを著しく低下させます。

ここで重要になるのがWASMパフォーマンスの特性です。WebAssemblyは線形メモリ(Linear Memory)を使用し、GCの影響を受けずにメモリを直接管理できます。さらに、SIMD(Single Instruction, Multiple Data)命令を利用することで、並列演算が可能になり、画像フィルタリングやエンコーディング処理においてネイティブアプリに近い速度を実現できます。

注意: WASMとJS間のデータ受け渡しにはコストがかかります。頻繁に小さなデータをコピーするのではなく、共有メモリ(SharedArrayBuffer)を活用するか、ポインタのみを渡す設計が必要です。

RustとFFmpeg WASMによる実装

今回は、安全性とパフォーマンスを両立できるRust Web開発のエコシステムを採用しました。具体的には、Rustで書かれた画像処理ロジックをWASMにコンパイルし、動画変換には既存の資産であるFFmpeg WASM(FFmpegのWASMポート)を統合します。

以下は、Rust側で共有メモリ上の画像データを直接操作し、グレースケール変換を行う例です。JSのループ処理と比較して劇的に高速です。

// Cargo.toml
// [dependencies]
// wasm-bindgen = "0.2"

use wasm_bindgen::prelude::*;

#[wasm_bindgen]
pub fn apply_grayscale(mut data: Vec<u8>, width: u32, height: u32) -> Vec<u8> {
    // ピクセル操作:RGBAの4バイトずつ処理
    // unsafeブロックを使わずにイテレータで高速化
    for chunk in data.chunks_mut(4) {
        let r = chunk[0] as f32;
        let g = chunk[1] as f32;
        let b = chunk[2] as f32;
        
        // 輝度計算
        let gray = (0.299 * r + 0.587 * g + 0.114 * b) as u8;
        
        chunk[0] = gray;
        chunk[1] = gray;
        chunk[2] = gray;
        // alpha (chunk[3]) は変更しない
    }
    data
}

次に、FFmpeg WASMを使用して、処理済みのフレームを動画としてエンコードします。このクライアントサイド処理により、巨大な動画ファイルをサーバーにアップロードすることなく、ブラウザ内で変換を完結させることが可能になります。

// フロントエンド(React/TS)でのFFmpeg呼び出し
import { createFFmpeg, fetchFile } from '@ffmpeg/ffmpeg';

const ffmpeg = createFFmpeg({ log: true });

const transcode = async (file: File) => {
  await ffmpeg.load();
  
  // メモリファイルシステムに書き込み
  ffmpeg.FS('writeFile', 'input.mp4', await fetchFile(file));

  // エンコーディング実行(WASM内で完結)
  await ffmpeg.run('-i', 'input.mp4', 'output.mp4');

  // 結果の取得
  const data = ffmpeg.FS('readFile', 'output.mp4');
  
  // URL生成
  const url = URL.createObjectURL(new Blob([data.buffer], { type: 'video/mp4' }));
  return url;
};
SharedArrayBufferの要件: 高速な並列処理を行うには、サーバーレスポンスヘッダーに Cross-Origin-Opener-Policy: same-originCross-Origin-Embedder-Policy: require-corp を設定する必要があります。

パフォーマンス検証

実際に50MBの4K動画ファイルに対して、フィルタ処理と再エンコードを行った際のベンチマーク結果です。JavaScriptのみの実装と比較して、処理時間とメモリ使用量の両面で大幅な改善が見られました。

処理環境 処理時間 (平均) UIフリーズ時間 メモリピーク
JavaScript (Canvas) 14.2秒 12.5秒 (致命的) 850 MB
Rust (WASM) + FFmpeg 3.8秒 0.2秒 (WebWorker) 240 MB

Conclusion

WebAssemblyを活用することで、従来はサーバーサイドで行うしか選択肢がなかった高負荷なメディア処理をブラウザにオフロードすることができました。特にRustの所有権モデルによるメモリ安全性と、FFmpegの強力なエンコーディング能力の組み合わせは、モダンなWebアプリ開発において強力な武器となります。サーバーコスト削減とUX向上の両立を目指すなら、今すぐWASMの導入を検討すべきです。

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